「顎関節症」に注意
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2012/2/9 日本経済新聞 プラスワン
一生のあいだに日本人の2人に1人が経験するともいわれる顎(がく)関節症。「あごが痛い」「口が大きく開けられない」といった症状に思い当たる人もいるかもしれない。以前は歯のかみ合わせが原因と考えられていたが、最近では生活習慣が発症の原因という考え方が主流になってきた。顎関節症になりやすい生活習慣を見直すことで、症状を緩和したり、予防したりできるという。
歯のかみ合わせや歯並びが顎関節症の原因と考えられていた頃は、歯を削ったり、マウスピースを使ったりして理想的なかみ合わせにする治療が一般的だった。しかし、こうした治療をしても、目立った効果が得られないことが多く、患者への負担も大きいことが分かってきた。このため顎関節症の要因になる癖を直す生活指導や、筋肉や関節のトレーニングによって症状を改善する治療法が採用されるようになってきた。
あごへの負担大きい パソコン操作
顎関節症とはいっても、痛みの出ている場所は顎関節そのものではなく、実際にはあごの回りの筋肉に痛みが生じている場合が多い。あご回りの筋肉に負担をかけるような生活習慣が顎関節症を引き起こしているからだ。ほおづえをついたり、寝転がって本を読んだりすることの多い人は、知らないうちにあご周りの筋肉に負担を与えているので要注意だ。
東京医科歯科大学の木野孔司准教授は「この十数年で顎関節症の新規患者数が増えたのは、パソコンが普及したことが原因の一つ」と見る。鉛筆やペンで文字を書いていた頃は、手が疲れるので数十分ごとに休憩していたが、パソコンでは数時間同じ姿勢でいてもあまり苦にならないからだ。特に下あごを前に突き出すような姿勢で画面を見る癖のある人は、あごへの負担が大きくなりやすい。定期的に休憩を取り、軽く体を動かすなどして、筋肉をほぐすようにするといい。
また、「上下の歯が接触する癖(TCH)はあごの筋肉に負担をかけ、顎関節症の要因になる」(木野准教授)という。リラックスした状態で唇を軽く閉じている時、上下の歯は接触せず、隙間が空いているのが通常の状態。唇を閉じた時にどこかの歯が触れている人は、TCHの可能性が高い。上下の歯が接触していると、あごの筋肉が常に緊張した状態になり、あごの回りの血流が悪くなって痛みが出やすくなるという。
TCHのある人は、職場のパソコンの画面や洗面所など、目に付きやすい場所に「歯を離してリラックス」などと書いた貼り紙をして、気づくたびに息を吐きながら力を抜くようにする。意識して上下の歯を離すようにするのは難しいので、「条件反射のように、貼り紙を目にしたらリラックスすることを習慣化するといいい」(木野准教授)。
日本歯科大学付属病院ではストレッチ運動やマッサージを勧めている。原節宏顎関節症診療センター長は「顎関節症の痛みはあご周辺の筋肉が肩こりのような状態になって起こることが多い。ストレッチやマッサージで血行を良くすると症状緩和につながる」と話す。
顎関節症に効果的なストレッチは左上図のように、片方の手を頭の上に添え、耳を肩につけるようなイメージで首の横側を伸ばす方法と、鼻を脇に近づけるようなイメージで頭を斜め前に倒す方法の2種類。下ろした方の手は床を触るつもりで下に伸ばし、30秒程度かけてしっかりとストレッチする。「左右交互に、3回ずつ、少なくとも朝夕の2回は続けるといい」(原センター長)という。
首の回りや、あご関節の周辺をマッサージして、筋肉をほぐすのも効果的だ。ただし、「甲状腺に病気のある人は、病気を進行させる可能性があるので、医師に相談したほうがいい」(原センター長)。
治療後に再発も
顎関節症は一度治療しても、生活習慣が変わらないと再発することが多い。今は症状がない人も、あごに負担をかける癖を続けていると、痛みなどの症状が出る可能性が高くなる。生活習慣の見直しやストレッチなどのトレーニングは自宅でもできることなので、思い当たることのある人は取り組んでみるといいだろう。
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音だけなら治療は不要
顎関節症の典型的な症状として、口を開け閉めする時に「カクン」という音や、「ザラザラ」というこすれるような音がすることがあるが、音だけならば治療の必要はない。顎関節で音が鳴るのは、膝の屈伸運動や首や肩を回した時に関節が鳴るようなもの。「耳のすぐ近くで鳴るので気になるだけで、あまり心配する必要はない」(木野准教授)という。
治療の必要が出てくるのは、口が大きく開けられなくなったり、口を開け閉めするときに痛みが出たりするようになってから。ただし、顎関節症の治療を専門に行う歯科医院は少なく、大学病院などでは予約待ちですぐには治療が受けられないこともある。東京医科歯科大学の顎関節治療部出身の歯科医らが運営する「次世代の顎関節症治療を考える会」のサイトでは、顎関節症に関する情報を掲載しているほか、メールでの問い合わせにも応じている。
(小国由美子)
[日経プラスワン2012年2月4日付]