顎関節症TMDナビ|習慣変えて治す

亀山歯科医院 多摩市永山

2016/10/16付 日本経済新聞 朝刊

 口が開けづらい、食事の際に顎が痛む、口を開けると「カクン」と音がする――。顎にこうした違和感を感じたら顎関節症かもしれない。日本人の半数程度が持つともいわれる顎関節症は20~30代で発症することが多い。かつては手術することが多かったが、最近は歯をかみしめる癖をやめるなどの生活習慣の見直しや、運動療法などを通じて症状を和らげる試みが増えてきた。

茨城県にすむ20代の女性会社員はある日、突然口が開きづらくなった。以前から食事などで口を開けると耳の付近で「カクカク」と音がすることがあり、痛みも少し出ていた。普段から歯をかみしめる癖があったという。

大学病院の歯科口腔(こうくう)外科を受診したところ、口は上下で最大3センチしか開かず、下顎があまり動いていないと医師に指摘された。診断は顎関節症。医師の指導で運動療法などに取り組んだところ、3カ月後には口が4センチ以上開くようになり、日常生活に支障はなくなった。

顎関節症の代表的な症状は、(1)顎の筋肉や関節が痛む(2)口が開けづらい(3)食事などで顎の関節から雑音が聞こえる――の3つだ。症状は基本的に、食事や会話などで顎を動かすときに現れる。しかし、これらの症状は炎症や神経の異常などでも起きる。まれに下顎の内側にがんが隠れていることもある。

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筑波大学付属病院水戸地域医療教育センター歯科口腔外科の鬼沢浩司郎教授は「顎関節症にはこの病気だけで起きる症状がなく、診断が非常に重要だ」と話す。大学病院などには顎関節の専門外来があり、磁気共鳴画像装置(MRI)などで詳しく検査できる。

日本人の半数程度が顎関節に何らかの異常があるとされる。確実な統計はないが、顎関節症の患者は少なくないと専門医はみている。かつてはかみ合わせの悪さが主な原因とされていたが、最近ではストレスや、歯を食いしばる、左右どちらかの歯だけでかむなどの癖なども発症の引き金になるといわれている。

顎関節症は現代病でもある。日本顎咬合学会理事長でウエハマ歯科医院(茨城県土浦市)の上浜正院長は「パソコンやスマートフォン(スマホ)の使用中は無意識に歯を食いしばるため、長期間強い力がかかり歯や顎関節、筋肉などに悪影響を及ぼす」と話す。

人間は口を閉じていても上下の歯の間が自然に開き、いくらか隙間があるのが普通の状態だ。だがスマホなどを操作していて顔が下を向くと上下の歯が合わさりやすくなる。また環境の変化などによるストレスでも、歯を食いしばることが増えるという。

最近は20~30代の若い女性を中心に顎関節症の患者が増えている。若い女性は顎のつくりが小さく、構造的に弱いことが原因だと考えられている。

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診断がついた場合の治療も、以前とは変わってきている。かつては放置すると悪化する恐れがあると考えられていたため、手術などで治療することも少なくなかった。だが2000年代に入ってから、時間がたっても症状が悪化する人は少ないとの認識が広がった。

鬼沢教授は「初期治療では、歯を削るなどの不可逆的な治療をしないことが大切だ」と指摘する。現在は負担の大きな治療は避け、じっくり治療する病院が多い。運動療法や生活習慣の改善などに取り組んでもらい、症状が緩和するかどうか見る。

歯を食いしばったり、かみしめたりする癖があるときは、生活習慣の改善に努め、就寝中はマウスピースを使ったりして顎の負担を減らす。上浜院長は「食いしばりを減らすことで、症状の改善や発症の予防につながる」と話す。

ただそうした癖は無意識に出ることが多く、完全にやめるのは難しい。現在、推奨されているのが認知行動療法だ。パソコンや台所、机など、いたる所に「歯をくっつけない」と書いた付箋を貼る。付箋が目に入るたびに歯の間を開く。一定期間続ければ、症状の軽減が期待できるという。

運動療法では指で下顎を押し下げるなどの動作を続け、徐々に口を大きく開けた状態に慣れる。顎関節や筋肉を動かしながら元の状態に近づける。指でこめかみなどをマッサージする手法も効果的だ。どうしても症状が改善せず、日常生活に支障をきたす場合は、薬や大学病院などでの内視鏡手術によって治療することも可能だ。

顎関節症の治療には決定打といえるものがなく、各病院が様々な方法を手探りしている状況だ。信頼できる歯科医師の助言を聞き、自分にあった治療をあせらずに選ぶようにしたい。

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悪化すると炎症起き痛み

顎関節は日常生活でもっともよく動く関節のひとつだ。下顎側の骨の先端が頭の骨にあるくぼみにはまり込み、間に「関節円板」というコラーゲンの塊が挟み込まれた構造になっている。この関節円板が正しく動かなくなると、顎関節症につながるとみられる。

食べ物をかみ砕くとき、顎には大きな力がかかる。関節円板はその力がダイレクトに頭骨にかからないよう、クッションの役割を果たしている。口を開くときには下顎の骨がずれ、関節円板はこれを邪魔しないよう前方に動く。

だが関節円板の位置がずれたり、変形したりすると下顎とうまく連動せず、口の開閉のたびに関節円板が引っかかることがある。「カクン」という音がしたり、下顎の移動を邪魔して口が開けられなくなったりする。ひどくなると周辺組織に炎症が起き、痛みが起きる例もある。

関節円板の異常はMRIで見つかりやすい。生活改善などで治らなければ、手術で関節円板を除去するなどして治療する。

(山本優)

[日本経済新聞朝刊2016年10月16日付]

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